うつと不眠の関係
WHOによると、うつ病は先進国においては慢性の成人病として第4位の位置をしめており、実に男性の1割、女性の2割が一生に一度はうつにかかります。
うつ病には「からだの症状」が多く見られ、中でも不眠と食欲低下は約9割の患者に見られる基本症状です。
うつ病の不眠は、明確な抑うつ症状が現れるまえに、すでに見られることが多いです。(うつ病再発の際も同じく)
その際に現れる症状には
- 寝つきの障害である入眠障害
- ついても目覚めてしまい、眠りに戻ることが困難であるという中途覚醒
- 起床時に眠りが浅いと感じる熟眠障害
- 普段の起床時刻より2時間以上早く目覚め、それっきりねむれないという早朝覚醒
があります。
うつ病の患者には上記すべてのタイプの不眠が見られますが、もっとも特徴的なのが早朝覚醒です。加えて気分の日内変動があり、朝に症状がもっとも強く現れます。
不眠の原因は非常に多彩です。
それらはよく5つのPにまとめられます。
Physical:身体的要因 | 疼痛、かゆみ、頻尿、下痢、咳、呼吸困難など |
Physiological:生理的要因 | 不適切な室温、騒音、照明。なれない環境、寝具、時差など |
Psychological:心理学的要因 | ストレス、喪失体験、心的外傷経験など |
Psychiatric:精神疾患 | うつ病、神経症、総合失調症、脳器質疾患、痴呆性疾患など |
Pharmacological:薬理学的要因 | カフェイン、ステロイド、抗がん剤、アルコール依存など |
この中でも、不眠の症状を訴えて病院に来た患者の中で、もっとも多いものが「精神疾患です(4~5割超)
不眠とうつ病の関係性を調査した結果、不眠はどの年齢層においても10%前後みられ、慢性化しやすく、慢性化した不眠を持つものでは、不眠のないものに比べてうつ病発症のリスクが数倍に高まることが明らかになっています。
では、なぜ不眠があるとうつ病になる危険が増すのでしょうか?
不眠はストレスを契機に発症することが多いです。ストレス一般はストレスホルモンであるコンチゾール分泌と、交感神経興奮に関連するノンアドレナリン分泌を引き起こします。ストレスによるコンチゾール分泌の亢進は、視床下部―下垂体―副腎系(以下:HPA系)によって引き起こされます。
また一方で、深い眠りはHPA系を抑制的しますが、逆に不眠はHPA系を刺激します。
つまり、不眠はHPA系を刺激し、これにより不眠がHPA系の亢進をもたらし、HPA系の亢進が不眠をもたらすという悪循環が形成されます。
そして、うつ病では多くの患者にHPA系の亢進が認められます。
ストレスは誰にでも一過性の不眠とHPA亢進をもたらします。通常はストレスが一過性であり、それが過ぎた後は不眠とHPA系の亢進は回復します。
ですが、一部の人ではストレスが去った後でも不眠が持続し、慢性の不眠の原因となります。慢性の不眠はHPAの亢進をもたらし、一方HPA系の亢進は不眠を強化するので、個々に悪循環が形成されます。この状態が続くことでうつ病が引き起こされるのです。
つまり、不眠を起こしやすい人はうつ病に対して脆弱性を持っているのです。
実際にアメリカの医学部学生による実験によって、学生時代に不眠のあったものでは、不眠のなかったものに比べ、その後のうつ病発症率が2倍に及んだという結果が出ました。
この学生時代の不眠の有無が中年以降のうつ病のリスクに影響していることは、不眠とうつ病の関係と整合しています。